「呆けない科学」

 「ボケ」とは、神様が人間に与えてくれた最後のプレゼントかもしれない。
 「老い」の苦しさや、「死」への怖さを忘れさせてくれる最高の妙薬が「痴呆」なのだろう。

 しかし、ここにも選択権がありことを忘れてはいけない。
 年老いたら、全員が「痴呆」になるのか?
 いや、望んだ人間だけがなるのである。

 世の中に必要とされなくなった人間。
 この世から逃げたくなった人間。

 一人で余生を楽しもうとする「老人」には、「痴呆」は、無縁である。


  あなたは、晩年の準備を済ましていますか?



 脳を理解しよう


 ヒトの脳の中は、1000億のニューロン神経細胞)でできている。このニューロン同士が、数千から数万のシナプス(情報をやり取りする手)を張り巡らせて、通信(信号をやり取りする)し合う事で我々の脳はいろいろなことを考えることができるのです。
 まあ、簡単にいうと1000億人の人間がそれぞれ1000人以上のヒトと脳の中で常に会話を交わしながら、物事を進めていると思えばよいでしょう。
 では、学習(記憶)とは、なんでしょうか?
五感から入ってくる刺激(電気信号)をクルマのナビゲーションに覚えさせると同じで、電気信号の通り道を作り上げ、そこにりっぱな道を作っていく作業なのです。
そのために脳細胞は、ニューロンの回路を3つの方法で変化させているのです。

一. ニューロンそのものを増やす
二. シナプスを増やす
三. 信号伝達を強くする
 

これにより、若い脳は、いろいろな情報を貯えていくのです。


 脳の老化とは?


 では、なぜ年を重ねると、「痴呆」や、「脳萎縮」を起すのでしょう。
 それは、まずは記憶を妨げる酵素PP一の存在である。この酵素により、記憶を消すことができるのですが、年とともに、この酵素が暴走をはじめ、出すぎてしまう場合があるのです。
 また、ニューロンそのものの寿命によって、絶対数が減少していくことも考えられます。
 ニューロンは、増殖機能はないのです。それによって、記憶が安定しているのですが、そのかわり年をとれば数は極端に減っていきます。

 では、長生きイコール必ず「痴呆」なのでしょうか?
 いや、違います。ニューロンは、減っていきますが、シナプスは違います。生きているニューロンシナプスを増やすことにより、死んだニューロンの働きをカバーするようにできているのです。

 最近のアメリカの研究で、このシナプスを増加させる物質が見つかり、「痴呆」や「アルツハイマー」、「パーキンソン病」の研究で成果を上げています。
 その研究のことを、「糖鎖生物学」といいます。まだ、誕生して10年ぐらいしかなりませんが、「糖鎖」は、核酸(DNA)、たんぱく質に次ぐ、第三の生命鎖としてもっとも注目を浴びています。


 ガングリオシド


 ガングリオシドは、シアル酸を含む一群のスフィンゴ脂質の総称です。1935年、ドイツ・ケルン大学生物学者E.Klenkが、脂質代謝異常症であるTay-Sachs病の患者の脳から発見したのが研究の幕開けとなりました。
 日本では、東大伝染病研究所の山川が、1951年ウマの赤血球膜にガングリオシドを発見したのが研究の始まりです。
 21世紀は「脳の世紀」といわれています。このガングリオシドの機能の解明が脳科学、生物学に更なる発展の一里塚になることが世界で期待されています。